ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 グラスを弄びながら考えに耽っていた私に、マスターは気遣う必要がないと微笑んだ。

 彼は独特なオーラがある。
 寄りかかっても、許されるような。
 総支配人とはまた違った、大人の余裕を……。

 そう言うところが慎也さんに少し似ているから、好ましいと思うのかもしれないわね。

「誰に対しても優しい人って、本心が見えないわよね」

 マスターは微笑みを浮かべたまま、固まった。

 口にした話題が、想定していない内容だったからだろう。
 私は彼の反応を気にすることなく、言葉を重ねた。

「あなたに、愛する人はいる?」
「残念ながら」
「経験豊富そうなのに……」

 手にしたグラスへ口づけ、遠くを見つめて思いを馳せる。

 外見が目麗しく、優しいところが彼と似ているマスターなら、総支配人の気持ちがわかるのではないだろうかと期待していたのだけれど……。

 愛する女性がいないならば、仕方がない。

 彼の言う通り、無理に会話を続けるべきではなかったのかもしれないと反省していれば。
 やがて、マスターの優しい声が聞こえてきた。

「見た目や内面だけで人を判断すると、大切なものを見逃してしまいますよ」
「経験したことがあるような口ぶりね」
「ご想像にお任せいたします」

 私はマスターの言葉を受けて、反省する必要はなかったのだと気づく。
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