ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「……っ」

 舌で舐めたかと思えば唇で吸いつき、甘噛みされて鈍い痛みが首筋に走る。

 まるでヴァンパイアにでも、なったかのようだ。
 彼の八重歯が尖っていれば。
 私は首筋にカプリと噛みつかれ、血を吸われ――生気を奪われてミイラになってしまうのだろう。

「白い首筋に残るこの赤い花は、香帆が俺のものになった証だ。隠すことなく、曝け出してくれ」
「そ、そんなの……っ。無理に決まっています!」
「社内恋愛は禁じられているが、外部との男女交際は黙認されている」
「何を言って……!」

 自分よりも渉と仲良さそうにしているのが気に食わないくせに。

 外部の男性と私が交際していると噂になるのは黙認できるなんて、おかしいわ。

 私はバタバタと彼の腕から逃れようと身を捩って暴れたけれど、抱きしめる力が強まるだけで逃げられなかった。

「香帆は俺を、拒んでいるのか」
「そう言うわけじゃ……」
「なら、どうして嫌がる」

 だってあなたには、御曹司でしょう。
 私のような冴えない女よりも、相応しい人がどこかにいるはずよ。

 なのに――どうして私なの?

 どれほど好意的な言葉を投げかけられたとしても。
 私は彼の口から紡ぎ出される内容を、信じられそうになかった。
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