ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「住む世界が、違うわ」
「いや。そう変わりはないはずだ」
「何を根拠に……」
「上辺の肩書だけで判断して振られるなど、冗談ではない。俺の内面を知ってから、答えを出してくれ」

 ――彼はずるい。
 私が強い力で拒絶しないことを見越して、かなり強気に迫ってきている。

 こちらがその気になった瞬間、梯子を外すくせに。

 真に受けてはいけない。
 彼の誘いに乗ったところで、損をするのは私だけなのだから。

 どれほど甘い言葉を囁かれても、屈するわけにはいかないのだ。
 自分を守るためにも、絶対に――。

「ずいぶんと、自信がおありのようですね」
「香帆は、色恋沙汰に興味のない俺が初めて愛した女だ。必ず添い遂げる」
「な……」

 彼の口から紡がれた決意を耳にした私は、絶句してしまった。

 初めて愛した女? 私が?

 だって、こんなにも目麗しい男性なのに。
 引く手数多だったはずでしょう?

 信じられるはずがない。

 絶対嘘に決まっている。
 きっとこれは、結婚詐欺のようなものだわ。
 真に受けたら最後。こっぴどく捨てられるに決まっている。

「離さない。何があっても、絶対に」

 彼は私の心に思い描いた言葉を読み取ったかのように、低い声で囁く。
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