ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 背中から逃げられないように力を込めげ抱きしめた総支配人は、何を考えているのかしら。

 私は考えていることが理解できず、抱きしめられるがまま動けないでいた。

 ――寡黙なんて、とんでもない。

 お猪口に注がれた日本酒をチビチビ飲みながら無言でカウンターに座っていた姿からは想像もつかないほどに。

 彼の内面には、言葉に言い表せないほどに重い愛が隠されているのかもしれないわ……。

「明日の夕方。香帆の時間を俺にくれないか」

 彼は私の言葉を待っていたようだけれど、いつまで経ってもこちらの声が聞こえて来ないからでしょうね。
 耳元で囁かれた誘いを、無視するわけにはいかない。
 私は渋々、返答する。

「明日は午前中、用事があって……」
「……香帆のことを、もっと知りたい」
「業務中に顔を合わせるだけで、充分ですよね」
「いや、不十分だ。俺の魅力は、業務中だけでは伝えきれない」

 彼がホテル・アリアドネに出向してきてから三日が経過しているけれど、人となりは充分すぎるほどに判断できた。

 これ以上私に、何を知ってほしいのだろう。
 勤務中の支配人が宿泊客に向ける笑顔は、色恋沙汰に興味がない私ですらもときめかせるほどに破壊力があるのに……!
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