ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「……私のこと、動物か何かだと思ってる?」
「そうだな。香帆は……。猫のように見える」
「猫……?」
「ああ。あっちへこっちへふらふら。しっかり捕まえて置かないと、酷い目に合わされてしまいそうで危なっかしい」
「そうかしら……?」

 猫に例えるなら、秋菜のことを思い浮かべるけれど……。
 兄が犬なら、きっと妹も同じ種族よね。

 ゴールデンレトリーバーと、コーギーあたりだと思えば、彼が私をそう例えるのは納得できるような、できないような。

 私はなんとも言えない気持ちになってしまった。

「ああ。警戒心が強いくせに、一度懐に入り込んだらごろごろにゃんと喉を鳴らしながら潤んだ瞳でこちらを見つめる……」
「それは……! 慎也さんのことを、愛おしいと思っているからで……!」
「ああ。わかっている。それは俺にしか、引き出せない表情だ」

 慎也さんは私の目元をなぞると、優しく微笑む。
 その笑顔にきゅんと来て、柄にもなくドキドキしてしまった。

 もう。慎也さんと一緒にいると、心臓が持たないわ……。

 私は視線を逸しながら、彼の名前を呼んだ。

「し、慎也さん……!」
「ああ。伝えたいことがあるなら、しっかりと目を合わせてからにしてくれ」
「は、恥ずかしいわ……」
「俺を求めて止まない、香帆の熱を帯びた瞳が見たいんだ」

 そんなこと言われたら、断れないじゃない……。
< 136 / 168 >

この作品をシェア

pagetop