ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 ちびちびと毎日いっぱいだけ日本酒を摂取して帰宅していたとは思えぬ豪快さに、私は何も言えなくなってしまう。

「落ち着かないか」
「あ、当たり前よ! リムジンなんて、初めて乗ったわ……!」
「これからの移動は、大抵これだぞ」
「でも……っ。一昨日は、徒歩で……!」
「ゾロゾロと付き従えていたら、何事かとあちらも警戒するだろう」
「あちらって……?」
「それに。数の暴力で絡め取るのは、俺の意に反する。これはあくまでオプションだ。本体に魅力を感じてもらわなければ困る」

 黒服の男女をこれ呼ばわりしたかと思えば、自分のことを本体とか言うし。
 慎也さんって案外、口が悪いのかしら……?

「意外そうな顔をしているな」
「慎也さんって、誰に対しても優しく諭すような態度だったから……」
「幻滅したか」
「そんなこと! 新しい一面が見れて、嬉しいわ」

 私が心からの笑みを浮かべれば、彼は腰元を掴んで引き寄せると、頭を肩越しへ押しつけた。
 幸せな気持ちでいっぱいになっていれば、慎也さんはか細い声でぽつりと呟いた。

「……隠していただけだ」

 なんの話だろうかと微笑みを消して彼を見上げれば、どこか遠い目で窓の外を見つめながら続ける。
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