ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「俺の評判は、本店ではあまりよくない」
「でも……。ホテル王って……」
「そうだな。いずれ俺は、ホテル・アリアドネを担う王となる。その為には、従業員に対する対応も柔らかなものでなければならない」

 慎也さんは本店では次期ホテル王と呼ばれ、従業員達から羨望の眼差しを向けられていたはずなのだけれど――彼はそれに気づいていないようね。

 もしも目麗しい女性が総支配人の魅力に気づいていたら。
 私が彼の婚約者となることなどなかったかもしれない。

 それに少しだけ優越感を感じながら。
 私は彼の言葉に耳を傾けた。

「俺の中にはどうにも、四つのスイッチがあるようだ」
「プライベートモードと、仕事モード?」
「ああ。その中から、二つに枝分かれする。何か分かるか?」
「後者は……従業員対する対応?」
「そうだ。さすがは俺の愛する女性だな。よく、理解してくれている」

 慎也さんは私を褒めるように、優しい手つきで髪を手櫛で梳く。
 それがとても気持ちよくて。
 思わず目を細めれば。

 最後の一つについての答えを求められた。

「最後は……見当もつかないわ」
「香帆と接する際の態度だ」
「私?」
「ああ。こうして君に触れているだけで心が満たされ、天にも登るような気持ちになれる」
「大袈裟よ……」
「香帆は俺に、そうした感情を抱いたことはまだないのか」

 残念そうな顔をされてしまったら、何度も体験したことがあることを黙っているわけには行かないじゃない。
 私も慎也さんから視線を逸しながら、その感情を認めて口に出す羽目になってしまった。
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