ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「職場で、うまく笑えなくて……。クレームが、凄いんですって……」
「先程まで、笑みを浮かべていませんでしたか」
「だって、楽しいもの……」

 職場で血も涙もない鉄仮面女と評判の私だって、嬉しいことがあれば笑う。
 ホテル・アリアドネで笑みを浮かべられないのは、宿泊客が応対してくれた人の笑顔がない程度で不満を感じるのであれば、他に何か気に食わない別の原因があると思っているからだ。

 ――私は悪くない。
 たかだかフロント係の笑顔の一つで、評価が百八十度変わるなんてあり得ないと。

 そうやって責任転嫁して態度を改善することなく居座り続けているからこそ、こうして最終通告が言い渡されてしまったのだろう。

 自分でもそれがわかっているからこそ。
 自分の感じた考えをマスターへ打ち明けることなく、ぼんやりと空になったワインボトルと愛しい彼の横顔を交互に見つめながら微笑みを深めた。

「おいしいワインに、目麗しいイケメンが、対面の席に座っているのよ?」
「イケメン、ですか……」
「違うの?」
「どうでしょう。私は彼をそう称する女性など、見たことがないので……」
「なら、普段はどう称されているの?」

 私が興味本位でマスターに問いかければ、目を見張った彼は想い人へ視線を向けた。
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