ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 そう考えた私が気持ちを切り替えて提案すれば、オーナーの話に話題が移る。
 支店へは滅多に顔を出さないから、私も遠目で数回程度しか姿を見たことがなかった。

「父は中身がどうであれ、仕事のできる外見でさえあれば文句は言わないはずだ」
「それって……?」
「俺達の結婚は、絶対に反対させない」

 これから慎也さんが何をしようとしているかに気づいた瞬間。
 リムジンはある場所で停止する。

 そこは、ホテル・アリアドネの本社裏口で――。

「坊ちゃま。Bルートでしたら、誰にも見られることなく社長室へ入退室が可能でございます」
「わかった」

 しゃ、社長室!?

 まさか本当に、これからオーナーへ会うの?

 リムジンから降りたくないと踏ん張って見たけれど、繋いだ手を引っ張っても降りない私に痺れを焦らした彼に抱きかかえられ、無理やり車をあとにする。

「し、慎也さん! 離して……!」
「静かに。香帆だって、就業規則違反だと騒ぎになるのは困るだろう?」
「だ、だからって……!」

 抱きかかえられたまま結婚の挨拶をするなんて非常識にも程があるわ! 初対面の印象が最悪じゃない!

 ふざけるなと叫びたい気持ちをぐっと我慢すれば、あっと言う間に社長室へ着いてしまった……。
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