ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 ど、どうしよう。
 気が動転して、別れの挨拶を言えなかったわ……!

 なんて不躾な嫁だと思われたら、どうするつもりなのよ!?

 私は青くなったり赤くなったりしながらも足早に廊下を歩く彼に抱きかかえられたまま、裏口から再びリムジンへ乗り込んだ。

「香帆」

 車が発進してからしばらくすると、慎也さんが眉間に皺を寄せて私の名を呼ぶ。
 いつもだったら幸せな気持ちでいっぱいになって頬が緩むけれど、今日はそうも行かない。

 朝っぱらからいろんなところに連れ回されて、心臓がいくつあっても足りないからだ。

「悠長なことを言っていられなくなった」
「それって……?」
「このまま、決着をつけよう」

 彼に優しく微笑まれたら――異論を唱える術などない。

『話したいことがあるの。時間、もらえないかしら』

 スマートフォンを取り出して彼らに連絡すれば、数秒足らずで返信が来る。

『秋菜と待ってる』

 画面を覗き込んだ慎也さんが満足そうに微笑む姿を瞳に映した私は、車が停止するまで彼の胸元へ身体を預けた。
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