ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「秋菜……。一昨日は……」
「香帆が連日、夜遊びするような悪い子だって、思ってなかったよ……」

 ――玄関を開けて、顔を合わせて早々のことだ。
 彼女は苦しそうに唇を噛みしめると、下を向いてくるりと踵を返してしまう。

 謝るって決めたのに。
 仲直りするどころか、ますます嫌われてしまったわ……。

 わたしは憂鬱な気持ちになりながらも、どうにか勇気を振り絞って靴を脱ぐと秋菜のあとを追いかけた。

「……渉。香帆、来たよ……」
「よー。お帰り、不良娘!」

 秋菜は今まで見たことがないくらいに不機嫌モードだけれど、渉は茶化す元気があるみたいでほっとする。

 よかった。
 このまま穏便に話が終わるよう、うまく立ち回らなければ。

 わたしはリビングテーブルの前に座る二人と距離を取り、ソファーを占領しようとしたのだが――。

「どこ行くんだよ。香帆は、オレの隣な?」

 笑顔で渉に凄まれたら、抗い切れない。
 わたしは渋々、左の空いている椅子へ座ることになってしまった。

「それで、話って?」
「怒らないで、聞いてほしいんだけど……」
「夜遊びの件だったら、オレは気にしてないぜ? 香帆だって、たまには一人になりたいもんな?」
「渉……」
「総支配人とずっと一緒だったなら、こっちも山程言いたいことがあるんだけどさ?」

 渉が夜遊びを許容するような素振りを見せれば、即座に秋菜が兄を非難する。
 彼女はかなり怒っているようなので、それは仕方ないことだとわかっていたけれど――隣に座る彼も、表に出していないだけで妹と同じ感情を抱いていると長い付き合いのためすぐに読み取れた。
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