ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 慎也さんが危険だと、私を一人で話し合いに参加させたがらなかったのは正解だったかもしれない……。

 目が笑っていない兄と、今にも泣き出しそうなほど不貞腐れている妹を前にした私は、ゴクリと生唾を飲み込んでから本題に入った。

「――結婚することになったの」
「ふぅん。で?」
「……二人と同じくらい、大切な人が出来たんだ。だから、もう……」
「一緒には居られないって?」

 渉の言葉に頷けば、両手を胸元で握りしめて顔を上げた彼女の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 普段であれば、秋菜を慰めるのは私の役目ではあるけれど……。
 あの子が泣いている原因が私では、下手に大丈夫だよと優しい声をかけることなど出来なくて。
 じっと拳を握り締めて黙り込み続けていれば、甲高い悲痛な声が幼馴染から漏れ出て来た。

「渉とわたしを裏切るなんて、酷い……!」
「おい、秋菜。やめろって」
「香帆の王子様は、渉だよね……?」

 秋菜に私の王子様が慎也さんだと告げたら、絶交だと泣き叫ばれるかもしれない状況だ。

 渉は妹を咎めるように割って入ったけれど、ショックを受けている彼女は止まらなかった。

 こんな状態で、真実を打ち明けるのは気が引けるけれど――私が前へ進むためには、二人をどうにかして納得させなければならない。
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