ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「総支配人と私の関係、だけど……」

 今日の彼は、機嫌がいいみたい。

 私はほっと胸を撫で下ろしながら、慎也さんと今日に至るまでの経緯を説明した。

「……行きつけのバーが、一緒で……。会話はしたことがなかったけれど。一年近く、ずっと気になってはいたの。それで……いろいろあって……結婚することに、なったのよね……」

 私が重苦しい口調で事実を簡単に述べれば、相原兄妹は固まった。

 幼い頃から彼氏の一人も出来たことのない私が、勤務先の総支配人を釣り上げてきたのだ。
 驚きすぎて二の句が紡げないのだろう。

 秋菜が有名企業の御曹司と結婚するなんて打ち明けて来たら、私だって驚愕するもの。

 彼女は小動物のように可憐で、ふわふわとした笑顔が素敵な女性だから、最終的には全力で祝福するのだけれど。

 私は秋菜と真逆の印象を与える女性だ。

 男に養ってもらうくらいなら、一人で生きていく。

 これからもそうやって人生を歩んでいくはずだったのに――酔った勢いで一夜の過ちを犯したせいで、あっと言う間に絡め取られてしまった。

「端折りすぎだろ……」
「……結婚に至るまでの経緯を聞くなんて、拷問だよ……!」
「はいはい。わかったから。香帆は、いろいろあって総支配人と結婚する。もう決めてるってことだな?」

 渉が私の主張をまとめてくれたので、同意をするためしっかりと頷く。
 再び涙を流して俯向いた妹を宥めた彼は、髪をかき上げると微笑みを消した。
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