ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「んじゃ、オレも言わせてもらうけど」

 彼の纏う空気が変わったのには、すぐ気づいた。

 頭の中では、警告音が鳴り止まない。

 いつも笑顔の幼馴染が真顔になる時は、ブチギレている時だと知っているからだ。

 彼一人だけならどうとでもなるかもしれないけれど、真横では手と足が出そうな妹まで情緒不安定な状況だ。
 私は最悪の場合を想定しながら、緊張の面持ちでごくりと生唾を飲み込んだ。

「ずっと一緒にいるんだからさ。言葉にしなくったって、わかるだろ?」
「何を……」
「オレの気持ち、香帆は知ってると思ったんだけど」
「渉の……?」

 思い当たる節がなくてオウム返しにすれば、幼馴染は小ばかにしたような態度を見せて来た。

 簡単な話が、鼻で笑われたのだ。

 これには私もムカッと来る。

 ここで言い争いになったら、ただでさえ崩壊しかかっている関係が修復不可能になるとわかっていたからこそ。

 ぐっと堪えたけれど――。

 言葉にしなければ分かるわけないじゃないと、はっきり宣言してやりたくて堪らなかった。

「はは。マジで? 気づいてねぇんだ? この間秋菜が、口を滑らせてんのに?」
「渉にも、好きな人がいるの……?」
「すげー鈍感。なんで総支配人は、香帆を捕まえられたんだろうな……?」

 話を聞いていた秋菜が、幻滅したような瞳でこちらを睨んでくる。
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