ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません

　それには憎悪すら籠もっているような気がして。
　ビクリと肩を震わせた私は先ほどまで抱いていた渉に対する怒りが、スゥっと消えていくのを感じた。

「やっぱあいつと出会う前に、無理やり結婚しとけばよかったってことか……」

　なんだか、穏やかではない空気が漂ってるわ。
　そろそろ話を終えて、退散した方がいいのではないかしら……。

　身の危険を感じて腰を浮かせば、渉の指が私の手首を捕らえた。

　彼は真剣な眼差しで私を見下すと、普段の大声など微塵も感じられない静かな声で宣言する。

「今さら遅いかも知れねぇけどさ。一応、言っとく。オレは香帆が、ずっと好きだったんだけど」
「――え……？」

　そう、なの？

　私はその告白を耳にして、信じられない気持ちでいっぱいだった。

　だって彼は、私に好きだと伝えて来たことなんて一度もなかったじゃない。

　最近はご無沙汰のようだけれど。
　渉は学生時代に何度も他の女性を取っ替え引っ替えしていたはずだ。

　ずっと好意を持っていたと言われても……。
　簡単には信じられないわ……。

「だって、渉は……。交際経験があって……」
「あいつら、うるせーんだもん。香帆がどうなってもいいのかって脅されたら、一週間くらい夢見せてやんねぇと。危なくて仕方ねぇだろ？」
「そんな理由で……？」
「オレ達は香帆を守るためなら、なんでもして来たつもりなんだけどなぁ……」

　渉はその気持ちが私へ伝わっていないと知り、明らかに落胆の色を隠せていなかった。
　秋菜も兄の気持ちには同意しているらしく、何度も頷いている。