ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「ほら。香帆を連れ去る、鬼が出て来た」
「総支配人……!」
「――話はすべて、聞かせてもらった」

 秋菜は鬼の形相で慎也さんを見上げて睨みつける。

 だが、彼はそんな彼女の視線には一切気にした様子がなく、手にしていた通話中のスマートフォンの画面を相原兄妹へ見せつけた。

 ここに来る前、慎也さんがお守り代わりにもたせてくれたのだ。
 私の携帯に繋がっていると気づいた秋菜は、彼に奪われて堪るものかとこちらへ手を伸ばして来たが――総支配人が腰を抱き寄せるほうが早い。

 大好きな人のぬくもりが鍛え抜かれた筋肉質な胸板から服越しに伝わるのを感じながら。私はうっとりと瞳を潤ませ、幸福感に包まれていた。

「想像通りの展開だな」
「渉から香帆を奪うなんて……!」
「香帆は最初から、相原のものではない」
「最低! 鬼! 悪魔! 泥棒猫!」

 考えつく限りの罵倒を浴びせた秋菜は、うるうると瞳を潤ませて慎也さんへ喧嘩を売っている。
 ここまで来ると、呆れて物が言えないのだろう。
 渉は肩を竦めて立ち上がると、妹が私へ手を伸ばさないように背後へ回った。

「何やったって、愛する二人を引き裂けねぇんだから……」
「せっかくわたしが、密告してあげたのに……!」
「なんの話だ」
「オーナーの耳に入れば、二人は別れるしかなくなるでしょ……!」

 渉が妹を諭すように声をかければ。
 秋菜の口から、意外な言葉が紡がれた。
< 159 / 168 >

この作品をシェア

pagetop