ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「普段女性から、恐れられているのはなぜかを教えてほしいそうです」
「そっちじゃない。夢のようだ、と口にしただろう。その答えを、聞きたいだけだ」

 私が使い物にならなくなっているのを見かねて、マスターが代わりに男性客へ話題を提供してくれた。彼は意外にも店主と仲良さそうに話をしていると気づき、意外だなと目を見張る。

 私がいる時は、注文の時ですらも無言だったのに……。

 酔っ払って正常な判断が困難になっているからだろうか。
 それとも、マスターに嫉妬しているから?

 普段だったら絶対に口にしない素直な気持ちを、男性客に向けて吐露してしまった。

「ずっと、言葉を交わしてみたかったの……」

 彼は目を見開いたあと、その驚きを日本酒で流し込む。
 どうやら男性にとっては、思いもよらぬ言葉であったらしい。
 その様子を観察していた私は、やはり口にするべきではなかったと反省しながら彼に告げた。

「迷惑、だったかしら……?」

 ――迷惑に決まっている。

 このバーへ通うようになってから、もうすぐ一年が経とうとしているのだ。
 私が彼の立場であれば、何度だって話しかけるタイミングはあったはずだと呆れるだろう。

 何も今さら。
 こんな時に、打ち明けるようなことではない。
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