ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 必要以上に自分のせいだと背負い込み、彼を好きになった気持ちは間違いなどではないと信じたい私は、今もなお泣き叫ぶ秋菜から視線を逸らした。

「わがままで泣き虫な妹が、すんません。こいつ、手がかかるもんで」
「君もあまり、人のことを言えない性格をしているようだが……」
「まぁ、オレは兄ちゃんなんで。秋菜と一緒に騒いだら、収集つかなくなるじゃないっすか」
「渉……」
「こいつのことは気にしないでください。香帆のことをよろしくお願いします」
「ああ。任された」

 渉に羽交い絞めにされた妹は、ふざけるなとバタバタと両手足を動かして大暴れしていたけれど……。

 幼馴染に私をお願いされた慎也さんの行動は、彼女が兄の手から抜け出るよりも素早く――私達は相原兄妹の暮らす部屋をあとにした。

 私が暮らしているのは隣だけれど、鍵を締めてもベランダから襲いかかって来られるかもしれないと危惧したのだろう。

 彼は当然のようにエレベーターを使って一階のロビーへ向かうと、待っていたリムジンに飛び乗り、車を発車させるよう指示を出す。

「無事でよかった……」

 何度目かわからぬふかふかの座席に座る慎也さんの膝に乗った私は、首筋に顔を埋められながら低い声で囁かれたことにより、ドキドキと高鳴る胸の鼓動を抑えられなかった。
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