ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「秋菜の豹変には驚いたけれど……。渉と言い争いにならず済んで、よかったわ」
「そうだな。兄まで牙を剥くようであれば、あのまま香帆を助けられなかっただろう」
「助ける、なんて……。大袈裟な……」
「香帆は幼馴染だからと油断しているようだが、彼らには二面性がある。その狂気が二人同時に目覚めれば、あの程度では済まないぞ」
「そう、かしら……?」

 秋菜の豹変を見る前であれば、慎也さんの言葉を信じられなかった。
 けれど……。

 彼女に私の知らない一面が隠されていた以上、渉にもそうした部分があったとしてもおかしくはないのよね。

「長い間ずっと一緒にいても、すべてを知ることはできないのかもしれないわね……」
「――俺は相原兄妹のように、負の部分を隠すことはしない」
「慎也さん……」
「彼らと同じくらいの年月をかければ、香帆は俺のすべてを理解しているはずだ」
「三十年後だったら、慎也さんは六十三歳よ?」
「一般企業の平社員であれば、定年だな」

 今から三十年後なら、子どもが生まれたと仮定すれば成人を迎えて子育てが一段落した頃かしら。

 幼少の頃からずっと一緒にいた渉と、これから一生死がふたりを分かつまでともにいると誓う慎也さん……。
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