ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 どちらの立場が幸福なのかは、これから人生を歩んでみなければわからないのがもどかしい。

「人生のシュミレーションが、できたらよかったのにね……」
「もしも俺と結ばれたあと不幸になると結果が出たら。相原を選んでいたのか」
「どうかしら……」

 私にとって渉は、どこまで行っても家族で。大切なお兄ちゃんのような存在ですもの。慎也さんとバーと出会ってさえいれば、どんな結果であろうとも彼を選んでいたはずだわ。

「悩んでいるようにしか聞こえない口ぶりだな」
「嫉妬しているの?」
「ああ。俺は嫉妬深いんだ。こうして香帆を手に入れただけでは、満足できない……」

 渉から、私のことがずっと好きだったと言われた時は驚いたけれど……。
 告白は断ったし、もう言い寄ってくることはないでしょう。

 これから慎也さんの妻になるのだから、そんなに不安がらなくたっていいのにね?

「それが、慎也さんの弱さ?」
「……そうだな。相原兄妹のことを、悪く言えない。立場が逆であれば、俺は兄のように、素直に身を引けなかっただろう」
「立場が逆だったら……」

 私は慎也さんが幼馴染として過ごしていた場合のことを考える。

 三つ年上のお兄さん。
 五つ星ホテルの御曹司で、いつも不機嫌そうな顔をしているけれど――日本酒を嗜む時だけは、かっこいいと思える人。
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