ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「きっと渉なんて、視界に入らなかったと思うわ」

 私が好きになったのは、彼の立場ではなく内面だ。
 幼馴染だから、御曹司だから。
 気を許したわけではない。

「香帆……」
「好きよ、慎也さん」
「ああ。愛している……」

 私達は想いを確かめ合い、唇を触れ合わせる。

 恋の障害が取り除かれたなら。
 あとはまっすぐと伸びる未来へ向かって、歩み続ければいいだけだ。

「あとはご両親に許可を得たあと、このまま……」
「私の両親なら、いないわよ?」

 幸せでいっぱいになった私が微笑んだ直後のことだった。

 慎也さんに両親について聞かれたので、あっけらかんと言い放つ。
 ここで言葉を濁すと、心配をかけてしまうと知っているからだ。

「相原兄妹と家族のように過ごしたと言うのは……」
「ええ。私が高校の時。事故で亡くなってからは、相原家で暮らしていたの。親族も居なかったし、成人も近かったから……」
「すまない。つらいことを、思い出させてしまった……」
「いいのよ。気にしてないから」

 相原兄妹が必要以上に私へ入れ込む理由を知ったからだろう。
 気遣うようにこちらへ視線を向けて来る慎也さんの優しさがありがたい。
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