ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 ――この人を好きになってよかった。

 彼ならきっと、この先もずっと私にたくさんの愛を注ぎ込んでくれる。
 そんな気がするから。

「婚姻届を早めに出した方がいいなら、許可は必要ないわ」
「わかった。では、このまま出しに行こう」
「保証人の欄は?」
「すでに記入を終えている」

 慎也さんから緑の紙を差し出されたところで、驚くなどあり得ないと思っていたのだけれど……。
 彼の妻になる喜びとは異なり、私は別の意味で驚愕することになる。

 それは、保証人の欄に記載されていた文字に関連することだ。

 新郎欄はオーナーの名前。
 新婦欄には、意外な人物の名が書かれていて――。

「渉……?」
「……兄の方には、事前に話をした」

 だから秋菜みたいに、渉は大騒ぎしなかったのね。
 ガス抜きが済んでいれば、暴れるわけがない。
 盲点だったわ。

 こうなることを見越して用意周到に立ち回る。
 さすがは誰もが羨み頭を垂れるホテル王だと羨望の眼差しを向けながら、そんな素敵な慎也さんが自分の旦那さんになるのだと幸福感で胸がいっぱいになってしまった。

「慎也さんに、一杯食わされてしまったわね」
「いや……。香帆の方が、何枚も上手だ」

 彼は私が想像の何倍も先へ行くので、背中を追いかけるのがやっとだと微笑んだ。

「想像通りの人間なら、好きになっていないでしょう?」
「そうだな」

 そうして笑い合った私達は、その足で婚姻届を提出し――書類上では晴れて夫婦となった。
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