ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
『迷惑だ』

 冷たく言い放たれたら、想いを打ち明けるまでも無く失恋確定。
 でも、もしも。
 真逆の言葉が彼の口から聞こえた、その時は――。

「いや。俺もゆっくり、君と話をしてみたかった」

 この人にすべてを曝け出そうと、決めていた。

「あなたが私の職場で働いてくれたら。いつだって、笑顔を浮かべられるのに……」
「俺の顔が、そんなにいいのか」
「ええ!」

 私は幼馴染にしか見せたことのない満面の笑みを浮かべ、彼を素敵に思った理由を告げる。

「日本酒を楽しんでいる横顔が、とてもかっこいいと思ったのよ」
「本当か」
「私の気持ちを疑うの?」

 クスクスと声を上げて笑った私は、バーカウンターの上に行き場を失くして置かれていた右腕に、そっと左手で触れた。
 手首には天井につけられたライトにキラリと照らされ、銀色に光り輝く腕時計がつけられている。

 それに触れて傷をつけるのはまずいだろうと恐れた私は、よく鍛え抜かれた腕の感覚をジャケットの上から確かめた。

 愛する人の腕に指先を滑らせながら。
 このまま彼の腕に抱かれたらどれほど幸せな気分になれるだろうかと、想いを募らせる。

 ――渉にだって、必要がなければ不躾に腕へ触れたりしないのに。

 この機会を逃してはならないとばかりに勇気を出して彼へ触れられたのは、アルコールの力を借りて正常な判断が出来なくなっているからだ。
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