ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 明らかに、飲み過ぎだった。

 これ以上接種したらぶっ倒れて、彼へ迷惑をかけてしまうと自分でもわかっているのに。
 赤ワインがおいしすぎて、男性客の腕を堪能し終えて満足した私は、あと一杯だけだとボトルへ伸びる手を止めれない。

「それ以上は、やめておけ」

 欲望のままに4本目のワインボトルを開けようとすれば。
 今度は男性客が私の手首を掴み、ストップをかけた。

 片思いをしている人がそう言うのならば、逆らうなどあり得ないわよね。

 彼から飲酒を咎められるなど思いもしなかった私は、手首から伝わるひんやりとした彼の冷たい熱と、ごつごつとした男性らしい大きな指の感覚にうっとりと頬を緩めながらしっかりと頷く。

「わかったわ」

 今日はもう飲まないと決め、空になったものと未開封のワインボトルを二本マスターへ返却する。

 わざわざボトルキープをしてほしいとお願いしなくても。
 無言で札をつけ替えて棚に並べてくれるところが、毎日のようにここへ通ってよかったと思わせる。

「これが気持ちのいい接客なのね……」

 誰かに何かをする時は、実際に体験してみなければわからないことも多い。

 うっとりと目元を緩ませ感嘆の声を上げて私の札がかけられたワインボトルが棚へ並ぶ様子を眺めながら。
 マスターの接客態度を盗んで仕事に生かして行ければクビは免れるかもしれないと思った時の事だった。
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