ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 こちらを見つめる瞳は、揺れている。

「君は今、正常な判断ができない状況下にある」
「ここまで着いてきたのは、私の意志よ」
「明日目覚めれば、今日の出来事を後悔するだろう」
「いいえ。幸せな夢に浸れたと喜ぶことはあっても、悲しむなんてあり得ないわ……」

 他の誰でもない。
 あなただからこそ、すべてを曝け出しても構わないと誘っている。

 だから。
 尻込みしないで。
 私を求めてほしい――。

「苦情は受けつけない」
「言わないわ……」
「一度肌を重ねたら、手放せなくなる」
「私は、なんの問題もないけれど……」
「俺に捕らわれる、覚悟はあるのか」

 彼は何度も、私に今なら戻れると誘いをかけてきた。
 一方的に逃げ道を塞いで襲いかかるのではなく、つねに二つの道を選ばせてくれる。

 それがこの人の、優しさなのだろう。

 ――あなたを好きになってよかった。

 そう思わせてくれる人からの誘いを、なぜ断らなければならないのかしら?

 ここで逃げ帰った方が、よほど後悔することになる。

 私だって、このチャンスを逃す気はないわ。

「もちろん……」

 首元を掴み、勢いよく引き寄せる。
 そこから先に、言葉は必要ない。
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