ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 私達は唇を触れ合わせ、シーツの海に沈む。

 男性らしい大きくてゴツゴツとした指先がゆっくりと女性らしいラインへ触れるたびに、私の唇から紡ぎ出されたとは思えぬ言葉にならない声が漏れた。

 ――熱を帯びた瞳が、私を見下している。

 早く私がほしいと、目で訴えかけているのだ。

「お願い……っ!」

 彼と一つになりたいと強請るように懇願しながら両手を背中へ回してきつく抱きしめれば、程なくして願いが叶えられる。

 ――私のことなど、興味がないと思っていた。

 どこの誰かすらもわからない人と愛し合うなんて、酔っ払って居なければ絶対にあり得ないことだ。

 いくらその相手が、ずっと気になっていた人であったとしても。

 ホテル・アリアドネの鉄仮面女は生真面目だから、正常な判断さえできれば絶対に彼を拒んでいた。

 ――だから。

 これは、一夜の過ちだ。

 私を貪り食うこの人だって、懇願されたから応じた。
 それだけのこと。

 勘違いなど、してはいけない。

 そこには愛などないし、気持ちを通じ合わせたから結ばれたわけではないと言うことを……。

 あの人の心は、手に入らなかったけれど。
 身体さえ手に入れば、充分だ。

 そうやって自分に言い聞かせた私は彼が与えてくれる、焼き焦げてしまいそうなほどの熱に身を委ね――甘い夜を過ごした。

 まさか半日後。

 彼と思わぬ場所で、顔を合わせることになるなど、思わずに――。

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