ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 宿泊客だけではなく同僚にまで嫌われたら、働きづらくて仕方がない。
 いよいよ居心地が悪くなって辞めるしかなくなるのであれば、変な意地を張る理由はないだろう。

 私は渋々荷物を纏めて椅子から立ち上がると、ロッカールームをあとにした。

「香帆!」

 壁に寄りかかって私を待っていた渉は、こちらを視界に捉えた瞬間大声で名前を呼んだ。
 思わず両手で耳を塞ぎたくなるほどの音量で叫ぶのはやめてほしいと思いを込めて睨みつければ、彼はもの凄い剣幕で私へ迫って来た。

「昨日、帰って来なかったろ? どこ行ってたんだよ……!」

 文句の一つも言ってやらなければ気がすまないと考えていたのは、どうやら彼も同じ気持ちだったようだ。

 両肩を捕まれ問い質され、その勢いに押されて数歩後ろへ下がってしまう。

 ――ロッカールームに繋がる扉は、すでに閉まっている。

 ぴったりと背中をつけた私は退路を断たれ、身動きが取れなくなってしまった。

「俺がどれだけ心配したと思ってんだ!」
「たった半日帰宅しなかっただけで、大袈裟よ……」
「事前に連絡してくれたら、ここまで騒いでねーから!」
「仕方ないじゃない。一杯だけ飲んで、すぐ帰るつもりだったの。だけど……」
「飲み歩いてたのか!?」
「行きつけのお店で、潰れてしまったのよ」
「おいおい。嘘だろ……?」

 先程までの勢いはどこへやら。
 信じられない気持ちでいっぱいになった幼馴染は、困惑した様子で両肩を抑える手から力を抜いた。
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