ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 すぐ頭に血が上って激高する。
 こう言う所が猪突猛進な渉らしいと言うか、玉に瑕と言うべきか。
 それは判断が分かれる所でしょうね。

「なんでオレを呼ばねぇんだよ……」
「マンションの近くだったら、遠慮なく呼びつけていたわ」
「あのなぁ……。オレは香帆の願いなら、今までなんでも叶えて来たろ」
「そうだけど……」

 伝えても、いいのだろうか。

 私達はもう大人なのだから、いつまでも子どものままではいられないのだと。

 少しだけ悩んだ私は悔しそうに唇を噛みしめる渉にこれ以上期待されても困ると、思い切って問いかけることにした。

「幼馴染だからって。いつまでも頼ってばかりなどいられないでしょう?」
「なんでだよ。ずっと一緒にいるからこそ、困った時は助け合うんだろ?」

 渉と離れたい私と、現状維持を望む彼が言葉を交わし続けていたら。
 きっといずれ、口論に発展するでしょうね。

 長々と話をするべきではない。
 痛い腹を探られるのだけは、ごめんだわ。

 そう考えた私が話を切り上げようとすれば、幼馴染が眉を顰めながら言葉を紡ぐ。

「なぁ、香帆。最近、なんだか変だぞ」
「そりゃ、変にもなるでしょう。クビを宣告されて、あとがないのだから」
「支配人と話をする前から、ずっとじゃねぇか。宅飲みでよくね?」
「非日常を体感したいのよ」
「だからって……。一人でふらふら飲み歩くのは、よくないだろ」
「今まで何もなかったのだから。これからだって、問題ないわ」

 私は渉の幼馴染だけれど、操り人形ではない。
 やること成すことに苦言を呈し、行動を制限してくる権利など存在しないわ。
< 29 / 168 >

この作品をシェア

pagetop