ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 そんな思いを込めて突き放せば、彼の顔色が変化した。
 なんでオレの言うことを聞かないんだと怒鳴りつけて来ることはないけれど……。
 その表情には、有無を言わせぬ圧がある。

「危ないから、もうやめとけ」
「渉……」
「何か起きてからじゃ、遅いんだぞ」

 ――残念だったわね。
 見ず知らずの人と、取り返しのつかない行為を終えたあとよ。

 そう伝えたら、渉は仕事どころではなくなってしまうでしょうね。

 半日連絡が取れなかっただけで、この狼狽えようだ。
 事実を伝えたら、壁際に追い詰められて睨まれるだけじゃすまないかもしれない。

 まぁ、今さら幼馴染に低い声で行動を咎められたところで、痛くもかゆくもないのだけれど。

 私は低い声で行動を制限しようとしてくる渉と話を終える為に、結論を先延ばしにしようと提案した。

「……この話は、帰ってからにしましょう」
「オレは香帆のためを思って――」
「大丈夫よ。ちゃんと、伝わってる」

 いつまでも扉を塞いでいると、ロッカールームで着替えを済ませた同僚が始業できなくなってしまう。
 周りの迷惑を考えろと凄めば、渉は渋々私の両肩から手を離した。

 指先が小刻みに震えているのは、気になったけれど――。
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