ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 けれど……。
 接客態度が悪いと御曹司から強く言われるようなら、支配人から昨日勧告された通り喜んで辞表を叩きつけるつもりでもあった。

 誰だって、怒られるのは嫌ですもの。

 最悪の場合は、先の見えない転職活動が始まるのね……。
 私は憂鬱な気持ちでいっぱいになりながら、幼馴染へ宣言した。

「誰に注意されようとも。私は宿泊客に、過剰なサービスを提供するつもりはないわ」
「接客業の人間とは思えぬ発言だなぁ。怒られんぞ?」
「どうして楽しくもないのに、お客様を喜ばせるために無料で笑顔を提供しなければならないのよ。どうしても笑顔の女性からサービスを受けたいのなら、ファストフード店にでもいけばいいのよ」
「香帆が一人だけ仏頂面だから、目立つって話じゃねーの?」
「なら、全員仏頂面に統一すればいいじゃない」
「それは、ホテル的にNGなんじゃね?」

 ああ言えばこう言う。
 渉との会話は疲れる。

 昨夜の情事にまつわる全身の疲労感と、精神的な疲弊を受けた私は、朝っぱらから退勤後のような気持ちでどうにかフロントに到着した。

「皆さん。これより緊急ミーティングを開始します。移動をお願いします」

 勤務開始時刻になると、支配人が従業員達へミーティングの開始を告げる。
 渉の話が事実であれば、御曹司の紹介を兼ねた会議が行われるのだろう。
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