ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
4・一夜を共にした相手
「本日より、ホテル・アリアドネの総支配人を務めることになりました。村上 慎也(むらかみ しんや)だ」

 彼の名前を初めて耳にする瞬間が、勤務先になるなど思いもしなかった。

 私は従業員達と声を揃えて総支配人を迎い入れるタイミングが完全に出遅れてしまう。

「よろしくお願いします」

 やや遅れて挨拶をしたせいで、何事かと一斉に同僚たちの視線がこちらへ向けられる。
 私は額から柄にもなく冷や汗をだらだらと流しながら、青白い顔で動揺を悟られないように平常心でいるよう努めた。

 あの人が、御曹司?

 ホテル・アリアドネの総支配人になる?

 本店ではホテル王と名高い彼が、私の想い人で。
 一夜をともにした相手だなんて――そんなの、信じたくなかった。

「このホテルは現在、五つ星の評価を得ているが……ある従業員達のミスにより、輝かしき功績が失われつつある」

 彼は全員の顔を冷たい瞳で見渡したあと、低く唸るような重苦しい声で問題定義をする。

 勤務態度に問題があることを従業員全員に暴露されてしまった私は居た堪れない気持ちでいっぱいだったが、渉はどうも批判を受けていることに気づいていないようだ。
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