ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 ニコニコと満面の笑みを浮かべて、総支配人の話を熱心に聞いていた。

「私が総支配人として配属になったからには、宿泊してくださったお客様全員がご満足頂ける環境を作り上げる。その一環として……」

 彼は歯切れの悪い言葉を紡ぐと、当事者意識のまったくない渉をギロリと睨みつけてから、再び口を開く。

「今後ホテル・アリアドネではクレームゼロを目指して、隅々まで行き届いた接客を心がけてもらう」

 それは無理な相談だと言いたいのか。
 それとも、睨みつけられたことに対する呆れを含んだジェスチャーなのだろうか?

 渉はどちらとも取れる状況下で、肩を竦めて私を見つめた。

 まさか全員が集まっている場所で、幼馴染の反応に同意を示すわけにはいかない。
 私は硬い表情で黙って総支配人の話を聞くように視線で訴えかけてから、中央で口を動かす彼を見上げた。

「五つ星ホテルの名に恥じぬくつろぎの空間を、お客様へ提供することを第一に考えてほしい。以上だ」

 総支配人が挨拶を終えると、まばらな拍手が聞こえてくる。

 私達もかなり雑に手を叩いて暖かく迎え入れたけれど、これからのことを考えるだけでも頭が痛かった。

 一夜をともにした相手が、私達の教育係になるってことよね?
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