ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「渉はいいわよね。その気になれば、いつだって改善できるもの」
「そうかぁ? 声がうるさいって感じるのは、個人差があるだろ」
「そうね……」

 私が宿泊客に笑顔で応対できないように、渉にもある欠点があった。
 それは、声が大きすぎると言うこと。

『沈んでいた気持ちが、彼の明るい対応で吹き飛びました』
『耳が遠い自分にもわかる大きな声で説明して頂き、安心して宿泊できました』

 批判が9割を越える私とは異なり、渉は年配のお客様から評判がいい。
 しかし、若者達には不評だった。

『男性の声がうるさすぎて、個人情報の漏洩が気になります』
『五つ星ホテルのラグジュアリー感を損なう、大声対応に辟易!』
『体育会系の発声方法、改善するべきでは?』

 ホテル・アリアドネの2大がん。
 それが私、内宮 香帆(うちみや かほ)と相原 渉だった。

「それにさ? オレの場合、秋菜(あきな)と比べられるじゃねぇか」

 渉が口にした秋菜と言う名前の女性は、ホテル・アリアドネでベルガールとして働いている。

 一つ年下の妹だ。

 声がやや小さいことさえ除けば、私達三人の中では一番宿泊客からの評判が良かった。
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