ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません

　今回の赴任は、あくまで一時的な出向だ。

　宿泊客からのクレームが発生しなくなれば、本社勤務に戻れるのだろう。

　問題解決が急務と判断しているのだから、本社にいるときから調査内容に目を通しているのは、おかしなことではない。

　けれど……私が自分で計算した回数よりもクレームの回数が多くカウントされているのは、いくら相手が将来このホテルを担う御曹司で、片思いの相手だとしても我慢ならなかった。

　私は間違いを正すため、できるだけ冷静でいるように務めながら噛みついた。

「一か月に一回のペースで、クレームを受けていることは自覚しています。5件、多いのではないでしょうか」
「六十五件も六十件も、そう代わりはない」
「大きく変化すると思います」
「客商売だからな。毎月、規則正しくクレームが発生しているわけではない。問題は……自覚があるのに、なぜ改善されていないかと言うことだ」

　そんなの、考えなくたってわかるでしょうに。

　わざわざそれを私に言わせるのかと微妙な雰囲気を漂わせても、彼は無言でこちらの返答をじっと返待つだけ。

　続きの言葉を紡ぐ様子がない。

　私は渋々改善されない理由を、自らの口から告げることになった。