ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 私達は訝しがられぬ程度に、互いを気にしていたらしい。

 それならさっさと、話しかけてくればよかったのに。

 寡黙だと思っていたけれど……。
 彼は案外、はっきり言葉を口にするタイプのようね。

 私は新たに愛する人の一面を知れたことに喜びながらも、その感情を悟られぬように。

 総支配人から視線を外すと、彼を拒絶するように胸の前で両腕を組んだ。

「仕事終わりの疲れを吹き飛ばすほどのおいしい赤ワインを口にしたからこそ、浮かんだ笑顔です」
「思い出し笑い、と言う言葉を知らないのか」
「再現しようとしたって、できません」
「やる前から諦めるな」
「何度も試しました。ですが、駄目なんです……」

 いい年して情けないから、泣き言だけは口にしたくなかったけれど……。

 一度も試していないと怒られるのは、癪だったのだ。
 言い訳のように聞こえるかもしれないが、ちゃんと自分の口から伝えたかった。

「一人では難しいことも、俺と一緒なら改善できるかもしれない」
「総支配人の指導を受けただけで改善できたら、苦労はしません」
「随分と後ろ向きなんだな」
「前向きでいるのは、相原くんの仕事ですので……」

 いつだって明るく元気な渉、泣き虫で控えめな秋菜。
 その間に挟まれるようにして、感情の起伏が乏しい私。
 それが幼馴染三人の立ち位置だった。
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