ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 それは幼い頃から今に至るまで、一度も変化せずここまで来てしまっている。

 きっと、これからだって。

 私は笑いたい時に笑顔を浮かべられず、ロボットのように表情筋が死んだまま生き続けて行くのだろう。

「最初から、わかっていました。接客業に向いていないことは……」
「フロント係として勤務する以上は、君の個人的な感情を優先するべきではない」
「手厳しいですね」
「できない、ではなく、やらなければならないんだ。初歩の時点から躓いているのであれば、改善など見込めるはずがない……」

 総支配人はなぜ五年近くも放置していたのかと理解に苦しむ様子を見せていた。

 頭に血が登って怒鳴りつけて来ないだけまだマシだが……。

 やがて不愉快そうに細められていた瞳が優しい眼差しへと変化し、まるで聞き分けの悪い子どもを見守るような視線をこちらへ向けたことに気づいてしまった。

 ――これはもう、恋愛対象外になってしまったかもしれないわね……。

 昨夜の情事だって、そうだ。
 なんて人と交流を持ってしまったのかと、後悔していてもおかしくはない。

 ここまで来たら、もうヤケよ。

 初歩すら身に着けずここまで来てしまったと称されることに納得がいかない私は、眉を顰めて小さな声でぼやいた。
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