ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「私はもう、フロント係としては独り立ちしています。作り笑顔を浮かべられないだけで、どうしてここまで責め立てられなければならないんですか」
「それは君の接客が、お客様を不快にさせているからだ」

 ――完全に舐められているわね……。

 私が悔しさで唇を噛みしめれば。

 総支配人は淡々と、子どもへ言い聞かせるように抑揚のない声で説明する。

「部屋の広さは満点、料理にも満足。対応は素晴らしいのに、フロントの女性に笑顔がない」
「例え話ですか」
「そうだ。君さえ気持ちいい対応をしてくれたら、また来たいと思えるような素晴らしいホテルだったのに――」
「それって、私を責めてますよね」
「俺は宿泊客の気持ちを代弁したまでだ。お客様達は、けして安くはない金額を支払っている。よく、考えてくれ」

 最上級のラグジュアリー体験を約束しているホテルへ宿泊するのを楽しみにしていたのに。
 思っていたのと違ったとがっかりしたお客様達が、もう二度と来ないと愛想を尽かすだけならまだいい。

 だが、横の繋がりを使って悪評を拡散したら?

 今はSNSで少しでも不満があれば気軽に体験した出来事を書き込む時代だ。
 あっと言う間に炎上して、ホテル・アリアドネに閑古鳥が鳴く日が来るかもしれない。
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