ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 そう卑屈になって後悔しながら、私は不貞腐れを見せながら吐き捨てた。

「私と相原くんが嫌々態度を改めたって、無駄ですよ。難癖つけてくる奴らは、また別のところに不満を抱く。いいじゃないですか。クレームつけてくる奴らなんて、放っておけば」
「内宮」

 支配人は私を批難するように、名字を呼んだ。
 行きつけの店に毎日顔を出している女が、接客業に携わっている人間とは思えぬ発言をするとは思わず、幻滅させてしまったのかもしれない。

『わかりました。改善します』

 愛する男性から仕事中の態度について怒られた私は、たったそれだけのことを言えずに肩を竦めた。

「君とはよく、話し合う必要がありそうだ」
「そうですか」

 言葉を交わしあったところで、分かり合えるなど到底思えないけれど……。

 彼は一体、何を考えているのだろうか。

 さっぱり理解できない私は、ため息を溢した総支配人が首元できっちりと結んであったネクタイを外して差し出した姿を、訝しげに見つめた。

「ネクタイを結べ」

 ――この人は一体、何を言っているのだろう……。

 新手のパワハラかと警戒したけれど……。
 彼は私がマニュアル通りの対応しかしないと宣言したとき、不満そうだった。

 きっとこれは、これから始める教育の一環なんでしょうね。
< 48 / 168 >

この作品をシェア

pagetop