ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「嫌なんだよな~。兄妹だからって、なんでもかんでも秋菜を見習えって言われんの」
「同じ職場に務めているのだから、仕方ないでしょう」
「それが嫌なら辞めろって?」
「極論は、そうよ」
「でもな~。秋菜を一人にしたら、かわいそうだろ?」
「子どもじゃないんだから。いつまでも、三人一緒に居られるわけがないでしょう」

 生まれた時からずっと一緒で、家も隣。

 親同士も仲がいいことから、私達はまるで三つ子のように過ごしてきた。

 こうしてつかず離れず、学生生活を終えたあとも一緒にいられる今が奇跡に近いのだ。

「私達は他人なのだから。いつかは必ず、道を違える」
「そんな寂しいこと、言うなよ」

 私達は来年30歳の大台を迎える。
 三人のうち誰かが一人でも素敵な人に出会ったら、ずっと一緒に今まで通りの関係で居続けるのが難しくなるだろう。

 ――このまま死ぬまで、行動をともにするつもりがあるのか……。

 疑問に思った私は何度か、渉との関係をはっきりさせようとした。

『私と結婚するつもり、ある?』
『渉にとって私って、恋愛対象なの?』

 そうして疑問を口にして、その先に進むのはそう難しいことではなかったけれど……。

 私にとって相原兄妹はすでに、家族と同じくらい大切な存在だ。

 惚れた腫れたの話を進展させて、長年築き上げた心地のいい幼馴染同士でしか味わえない雰囲気を壊したくない。

 ――そう、思うから。
 二人の前ではいい人が見つかるまで、そう言う話はしないと決めていた。

「なぁ。香帆……」
「――今はまだ、勤務中よ。フロントに戻りましょう」

 何か言いたげな渉の言葉を遮った私はフロントへ戻り、勤務時間終了まで業務に集中した。
< 5 / 168 >

この作品をシェア

pagetop