ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
5・男同士の醜い争い(慎也)
 初めて友人の経営するバーで彼女を目にした時、どうしてここにいるのかと話しかけたくて堪らなかった。

 ――内宮香帆。

 ホテル・アリアドネの東京駅前店で、五年前から宿泊者の評価を著しく低下させている二大がん。

 父は二人のフロント係が問題になっていることを把握していたが、社長が直々に指導をするわけには行かない。

 時期を見て息子の俺を出向させる計画だと聞き及んで居た為、内宮のことは一方的に知っていた。

 だが……。
 彼女の方は、どうやら俺がホテル・アリアドネの御曹司であることを知らなかったらしい。

 総支配人として出向直後に挨拶をした際、内宮は明らかに動揺していた。

 毎日のように数分間顔を合わせていた相手が、上司になるなど思いもしていなかったと顔に書いてあったことに落胆したのは一瞬のことだ。

 ――たとえ、公私混同と批判されたとしても。

 あらゆる手を尽くして彼女を手中に収めるつもりで総支配人に就任した俺は、職場内にとんだ邪魔者がいると気づく。

「香帆のあとって、なんだか緊張しますね~」

 内宮と入れ代わりで管理人室に姿を見せた男性の名は、相原渉。

 服務規程を一切守る気がなさそうな明るい茶髪に、首元が苦しいのか上から二つまでワイシャツのボタンが開け放たれている。
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