ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「相原……」
「自分は名前で呼びたいのを我慢してるのに、オレだけ許可するわけいかないとか……思ってないですよね?」
「なんの話だ」
「総支配人って、香帆のこと好きだろ?」

 お情け程度の敬語をやめた彼の目は、笑っていなかった。

 むしろ、こちらをジト目で睨んできているようにも見える。
 プライベートであれば売られた喧嘩を買ってもよかったが、今は職務中だ。

 生まれた時からともにしてきた幼馴染だと言われても、こちらだってその気になれば情を交わし合った相手だと張り合える。

 大事なのは過ごした時間ではなく、彼女の心がどちらにあるかだろう。

 仮に八十歳まで生きるとしたら、あと50年はある。

 幼少期一緒に過ごした経験よりも、思いを通じ合わせたあとから始まる結婚生活の方が長くなるのは当然だ。

 相原の言葉を真に受けて怯む必要など、まったくと言っていいほど存在しない。
 俺は平常心を装い、あくまで上司と部下としての対応を心がけた。

「オレ、ずっとそばで見てきたんで。わかるんですよねー」
「君とプライベートな会話を交わすために、呼び出したわけではない」
「とぼけないでくださいよ。香帆の気持ちがどうであれ、横から掻っ攫うの。やめてくれません?」

 ――彼は内宮のことを、自分の所有物だと勘違いしているのではないだろうか。
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