ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 まるでお気に入りのおもちゃを奪われないようにと予防線を張る、幼稚園児にしか見えない。

 そうした振る舞いを間近にしてしまった俺は、眉間に皺が寄ってしまう。

 もしも二人が交際しているのであれば、略奪しようとする俺が全面的に悪いだろう。
 しかし彼女は俺に身体を預けてくれた。
 内宮は不誠実な真似をするような女性ではないはずだ。

 この二人は幼馴染なだけであって、交際の事実はない。

 気持ちを通じ合わせていないのであれば、この主張は相原の一方的なわがままだ。

 聞き入れる必要など、一切感じられなかった。

「幼馴染が必ず結ばれなければならない法律など、この世には存在しない」
「オレはずっと、香帆のことを大切に守って来たんですよ」
「だから、なんだ」

 法律の話を持ち出されると彼も反論できないのか、相原は自分が有利に物事を進められるような話題へ話をすり替える。
 そうした所が姑息だと思う一方で、冷静さを欠いたら負けだと反論することなくぐっと堪え続けた。

「やっとご褒美がもらえるって時に、自分よりハイスペックな奴が言い寄って来たら……ムカつきません?」
「――俺よりも優れた経歴を持った男と、愛する女性を取り合った経験が残念ながらないものでな。君の意見には同意しかねる」
「へー。そう言う感じなんすか。それならより一層、別の女性をおすすめします」
「いい加減にしてくれないか」
「それとも……。真正面から潰し合います? どっちが香帆に相応しい男なのか、あいつに決めてもらったっていいんですよ」

 彼は俺から彼女を愛していると言う言葉を引き出したいのかもしれない。
 白黒はっきりつけることさえできれば、内宮は絶対に自分を選ぶだろうと自信があるようだった。
< 54 / 168 >

この作品をシェア

pagetop