ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 ――くだらない。

 相原は彼女を愛する自分に酔っているだけだ。

 内宮のことなど見ていない。
 彼の前では、他人にマウントを取るための道具でしないのだろう。

「相原」
「香帆を愛する気持ちは、誰にも負けません。あいつがこのホテルを辞めるなら、俺と秋菜も辞表を出すんで」
「……君の妹は素晴らしい勤務態度で、このホテルに尽くしてくれているはずだが」
「そうですよ? 支配人は、秋菜を辞めさせたくないんで、オレらお荷物を許容した。恋愛感情抜きにしても、あいつを泣かせたら容赦しません」

 ――相原は内宮を守っているつもりになっているだけだ。
 牢屋の中に閉じ込めて、飼い殺しにしている。

 それを指摘してもよかったが……。

 今最優先するべきは村上慎也個人の感情ではなく、ホテル・アリアドネに今後宿泊するお客様達がなんの不満もなくお帰り頂ける環境作りだ。

 俺は拳を握りしめてプライベートモードから仕事のスイッチを切り替えると、冷たく言い放つ。

「内宮の話をしている君の声音は、耳を劈くような大声ではなかった」
「そうでしたっけ?」
「その音量をつねに心がけ、宿泊客へ応対するように」
「無理ですね!」

 俺の指摘を突っぱねた相原は、すっとぼけたかと思えば次の瞬間には大声で満面の笑みを浮かべて見せた。
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