ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「支配人は女性客にキャーキャー言われて、どう思ったんですか」

 総支配人はあたりを注意深く見回しながら、宿泊客の姿が見えないことを確認していたようだけれど……。

 目視で確認できない場所にいたお客様が偶然この話題を耳にしたら、クレームに繋がる可能性を考慮したのだろう。

 彼は私の耳元に唇を近づけ、小さな声で囁いた。

「それはプライベートのときに、もう一度聞いてくれ」

 何が悲しくて、プライベートでも仕事の話をしなければならないのだろう。

 私は反応を示すことなく、思考を巡らせる。

 宿泊者が不満を抱かぬように最大限気を配り、気を使う。
 こうした総支配人の行動が、ホスピタリティの溢れた接客なんだろうなと感じた。

 問題はこれから私が一人で、率先して実行していかねばならないと言うことだけだ。

「支配人は笑顔を浮かべるとき、何を考えていますか」
「お客様が不快にならない言動を、心がけている。オンとオフのスイッチを、切り替えているようなイメージだな」
「仕事中は、ずっとオンにしっぱなしですか」
「そんなわけないだろう。従業員相手にも、お客様と同じ態度でいるべきとは思わない」

 彼にとっては私と話している今の状況が、接客スイッチをオフにした状態なのだろう。
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