ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 支配人からあんなことを宣言されてしまったら、業務終了後も長々このホテルに居残りたいとは思えない。

「お疲れさまでした。お先に失礼いたします」

 渉は一緒に帰りたそうにソワソワとこちらへ何度か視線を向けてきたけれど、これから私には一人で行きたい場所があるのだ。

「あ、おい。香帆――」

 呼び止めて来た幼馴染に捕まるわけには行かないと、足早に職場をあとにした。

 二十四時間三百六十五日一緒にいた幼馴染と離れるのは、なんだか居心地が悪くて不安になることも多いけれど……。

 いつまでも子どものままでは居られない。

 白黒はっきりつける勇気がないままずっと相原兄妹と幸せな日常に浸っていたら、あっと言う間に結婚適齢期が過ぎてしまう。

 一生独身で過ごしていくつもりなら、それで構わないけど……。
 私だって、機会さえあれば女としての幸せを捨てるつもりはないのよね。

 これからは幼馴染の居ない日常を、当たり前にしていかなければ。

 そう思い立って始めた夜遊び――。

 私はそこで、ある人に一目惚れしてしまった。

 幼い頃から漠然と、結婚するなら渉しかいないと思い込んでいた私にとって、彼の姿を目にして“大好き”な気持ちが溢れて止まらなくなった時は、天変地異の前触れかと自分で自分の気持ちが信じられなかったけれど……。

 彼の横顔を眺めていただけで名前すら知らない男性を好きになるなら、きっと恋は理屈ではないのだろう。
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