ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 彼にその様子を見せたせいで、地の底まで落ちた私の評判がさらに下がることがないよう願うばかりだ。

「夢に出て来るかも、しれませんよ」
「構わない。見せてくれ」

 私は念の為総支配人に忠告したが、彼は聞く耳を持ってはくれなかった。

 ホテル・アリアドネの評判を貶める癌を切除するため、現状確認は欠かせない。
 拒否などできないだろう。
 責任感の強い、彼らしい判断だ。

 私は渋々、数年ぶりの作り笑顔を浮かべた。

「ひ……っ」

 声のトーンを落とすことなく。
 総支配人へ向けて、笑顔を浮かべると宣言していたからだろう。

 ソワソワと落ち着かない様子でこちらを見守っていた同僚女性が、怖いもの見たさで私の作り笑顔を見て悲鳴を上げた。

 その反応は、一般的な宿泊客が感じる真っ当な反応そのものだ。

 私は彼女が悲鳴を上げたことによってロビーでくつろいでいたお客様達の視線がこちらへ向けられたことを気配で察知し、笑顔を浮かべるのをやめた。

「内宮」

 総支配人は新たなクレームが発生しないように、ロビーにいる人々から私の姿が見えないように背を向ける。

 お客様を不快にさせない対応を心がけているつもりならば、それだけ充分なのに……。

 彼はなぜか私の腰元へ手を回し、強い力で抱き寄せた。

 一体、どんな風の吹き回しなのかしら?
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