ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 訝しげな視線で見上げながら、私は硬い声で総支配人へ同意を求めた。

「仏頂面で不愉快、笑顔が怖いとクレームになるなら、前者の方がマシだと思いませんか」
「……今までよく、頑張ったな」
「子ども扱いしないでください。慣れているので、問題ありません」

 彼は私を痛ましそうな目で見つめる。

 やはり、私の作り笑顔が他人から恐れられるようなものだとは気づいていなかったようだ。

 まぁ、当然か。

 かなり早い段階でそのことに気づき、私はこのホテルで無理に笑おうとしてこなかったのだから……。

「……すまなかった」
「謝罪は必要ありません」
「いや、必要だ。俺は君の事情を知りもせず、自身の意見を一方的に押しつけていた」
「それが総支配人の仕事ですよね」
「そうだとしても。俺が君を傷つけたことは事実だ」

 彼は自信満々に、私が傷ついていると告げた。

 誠実、真面目で、非の打ち所がない完璧男は、部下に対する配慮も一級品のようだ。

 整った顔立ち、御曹司と言う輝かしい功績、人を思いやる気持ちを持った才色兼備男に勝てる人物など、日本中を探したっていないだろう。

 だが……。

 その発言を受けて傷ついている自分がいるか決めるのは、彼ではなく私の方だ。

 自身の中にある弱さを認めたくなくて。
 慌てて同情しないでくれと伝えた時のことだった。
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