ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「わたしも一緒に……!」
「秋菜は渉と、先に帰って」
「でも……っ」
「じゃあ、また後でね」
「香帆……っ。昨日もそうやって、帰って来なかったのに……!」

 彼女は泣きそうな声で一緒に帰ろうと提案してくるけれど、上司の一方的な約束を断ったらあとが怖い。

 ――秋菜の提案は、心強いよ。
 でも、私があの人と二人きりになりたいの。

 朝はもう二度と顔を合わせないつもりで、逃げてしまったが――こうして毎日のように職場で働くのであれば、避ける理由など見当たらない。

 それなら開き直って、どうして昨日私に手を出したのか。

 その真意を問い質すべきだと考えたからだ。

 素面では無理でも、酔った勢いならばどうとでもなる。
 私は戦地へ赴く兵士のような気持ちで、ロッカールームから廊下に繋がる扉を開き――。

「香帆? オレ達兄妹を置いて、どこに行こうってんだ?」

 そして行きつけのバーへ向かう前に、倒さなければならない敵と顔を合わせることになった。

「渉……」
「総支配人の顔を初めて見た時。香帆はすごく、驚いてたよな?」
「気の所為でしょう」
「いーや。オレの目は誤魔化せないぜ?」

 渉は私の些細な表情の変化を見逃すことなく、答えを引き出すまでは逃さないぞと立ち塞がっている。
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