ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 総支配人やフロント係として出会ったからこそ、今があるのだけれど……。
 それがよかったとは、思わない。

 昨日の時点で御曹司だと知っていたら、私は絶対に身体を許さなかった。
 面倒なことになるとわかっていたからだ。

 ホテル・アリアドネは社内恋愛が禁止されている。
 それは私達にも当然、適用されるだろう。
 偉い人だから免除されるようなルールであれば、就業規則に記載などされない。

 笑顔を改善できたとしても。
 フロント係を辞めなければ、彼との未来はない。

 私との将来を考えているならば、今の状況は総支配人にとっても都合がいいはずなのに――彼は私を一人前に育て上げるべく手を尽くすつもりのようだ。

 それは私にとって、酔った勢いで手を出しただけでこの先に進むつもりはないと死刑宣告を受けているようなものだった。

 そのことに関して赤ワインを口に含んだ私は、思っていた以上にショックを受けていることに気づく。

 グラスに注がれた赤い液体を潤んだ瞳で見つめながら、彼には言えない気持ちを吐露した。

「仕事が出来て、面倒見がいい。整った顔立ちに御曹司なんて肩書きがあれば、周りの女性が放っておかないわ……」

 完全無欠な彼が、私に手を出してくれたことが奇跡に近いのだ。
 一夜だけの思い出だけで、満足しなければ。
 そう自分に言い聞かせるように、私は言葉を吐き出した。
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