ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 私が渉に抱いていた気持ちはやはり、恋愛感情ではなく家族愛に近い何かなのだ。

 そう確信を得た私は男性を目にした瞬間に心を奪われ、ドキドキと胸の鼓動が高鳴りビビッと来て……。

 彼が欲しい。
 自分と同じかそれ以上の愛を返してもらいたい。

 身体の奥底から湧き上がる欲望に目を背けることなく、忠実になろうと決めた。

 たとえ彼が必ず、その場所にいる保証がないとしても構わない。

 人を好きになった経験すら一切ない私は、一目惚れの相手に好かれるような人間ではないとよく理解している。

 可能性がないとわかっていても。
 彼への想いを捨てきれなくて――。

 会えなくてもいいから。
 行動しないよりはマシでしょう?
 ここへ毎日足を運ぶことこそが大事だもの。

 そうやって自分に言い聞かせ、あの場所へ足を運んでしまうのだ。

「いらっしゃいませ」

 ホテル・アリアドネから徒歩約五分。

 ネオンがピカピカと光り輝く繁華街の喧騒など届かぬ、静かな隠れ家的な印象を与える小さなバー。

 地上から階段を下り、防音環境の整った重厚な扉を押し開けば、いつだってバーカウンターにいるマスターが私を出迎えてくれる。

「どうぞ、お好きな席にお座りください」

 私は彼に向かって小さく会釈をすると、さり気なく右端のカウンターに座る男性がお猪口を片手に日本酒を嗜む姿を確認した。
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